Date:2025.12.30
住み慣れた釧路で、最期まで「自分らしく」。今こそ知りたいACP(人生会議)の話
私たちの暮らす釧路も、高齢化とともに「多死社会」を迎えています 。 「最期までこの街で暮らしたい」「家族に迷惑をかけたくない」 そんな想いをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
最近よく耳にする「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」、愛称「人生会議」。 これは単なる医療の話ではなく、あなたの「大切にしている価値観」を守るための取り組みです。
今回は、京都府立医科大学・吉岡さおり先生の論文をもとに、私たちCCLが地域の皆さまにお伝えしたい「ACPの本当の意味」をご紹介します。
1. ACP(人生会議)って、結局なにをするの?
ACPとは、将来の治療や療養について、あなた自身とご家族、そして医療・介護の専門家が「あらかじめ話し合う自発的なプロセス」のことです 。
「延命治療をするか、しないか」という決断だけを迫るものではありません。 もっと手前の、あなたの「人となり」を共有する時間です。
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大切にしていること(価値観)
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これからの目標や楽しみ
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気がかりなこと、不安なこと
これらを元気なうちから、あるいは病気と診断された時から、繰り返し話し合っていくことがACPです 。
2. 「書類を書いて終わり」ではありません
一昔前は、「事前指示書(AD)」といって、自分の希望を紙に書いておくことが重視されていました 。 しかし、人の気持ちは揺れ動くものですし、書いた紙がいざという時に活用されないケースもありました 。
だからこそ、今は「書類(結果)」よりも「話し合い(プロセス)」が大切だと言われています 。
- ACPのポイント 「一度決めたら変えられない」のではありません。体調が変わったり、気持ちが変わったりするたびに、何度でも話し合い、書き直していいのです 。
3. 病気によって「話し合うタイミング」が違います
病気には、それぞれ辿る「道のり(軌跡)」があります。これを知っておくと、「いつ、どんなことを話し合えばいいか」の心の準備ができます 。
- がんの道のり 身体の機能は比較的長く保たれますが、最期の1〜2ヶ月で急速に低下することがあります 。ご自身が元気なうちに、これからの希望を少しずつ共有しておくことが大切です。
- 心不全や肺の病気の道のり 良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、徐々に体力が落ちていきます 。入院した時や、治療の節目が話し合いのタイミングになります。
- 老衰や認知症の道のり 長い時間をかけて、ゆっくりと坂を下るように変化していきます 。ご本人の言葉が少なくなっても、ご家族や支援者が「あの人ならどう考えるだろう?」と思いを汲み取ることが大切になります。
4. 医療者・CCLスタッフは「あなたの応援団」
病気になると、「以前の自分と違う」と感じて自信をなくしたり、心が揺らいだりすることがあります 。 そんな時、あなたの揺れ動く心に寄り添い、「その人らしさ」を支えるのが看護師や私たち地域スタッフの役割です 。
ACPは、医療者が一方的に治療を決める場ではありません。 あなたが最期まで「自分とは何か」を大切にし、納得できる生き方を選択できるよう、私たちが全力でサポートします 。
【今日からできる】ACPの第一歩チェックリスト
まずは、ご家族や身近な人と、こんな話題から始めてみませんか?
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[ ] 最近、体調で気になることはありますか?
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[ ] 「これだけは大切にしたい」という趣味や時間は何ですか?
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[ ] もし食事がとれなくなったら、どこで過ごしたいですか?
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[ ] あなたの代わりに判断してほしい信頼できる人は誰ですか?
おわりに
地域包括ケアシステムが進む釧路において、ACPは「一人ひとりの価値に沿った生き方」を実現するための希望の光です 。
「もしもの話」は少し勇気がいりますが、それは「これからの時間をどう豊かに過ごすか」を考える前向きなステップです。
参考文献:吉岡さおり:一人ひとりの価値を支える Advance Care Planning (ACP) における看護師の役割 ~がん看護学の視点から. 京府医大誌 129(6), 395-401, 2020.