Date:2025.11.06

釧路の未来を考える:高齢者医療「窓口3割」拡大で、私たちの生活はどう変わる?~持続可能な地域医療の支え方

特定非営利活動法人CCLは、釧路管内において医療・介護・福祉の専門職と地域住民が連携し、「誰もがその人らしく生きる」未来を育むことをミッションとして活動しています。

今、国で進められている高齢者医療制度の抜本的な見直し、特に70歳以上の窓口負担を現役世代と同じ3割に拡大する検討は、高齢者も現役世代も、全ての釧路市民の生活と将来の地域医療に直結する重要な問題です。

なぜ負担拡大が検討されるのか?~現役世代の負担は「限界」に

現在、高齢者の医療費は増加し続けており、75歳以上の医療費の約4割は、私たち現役世代が払う保険料からの支援金で賄われています。高齢化が進む釧路(北海道全体でも高齢化率は高い水準にあります)でも、この現役世代への負担の偏りは深刻な問題です。

この不均衡を是正し、「所得に応じた公平な負担(応能負担)」を実現するため、所得が高い高齢者の窓口負担を3割とする対象を広げることが議論されています。具体的には、3割負担の基準となる年収要件の引き下げなどが検討されています。

【釧路市民にとっての課題】

窓口負担の基準の見直しは、「現役並み所得」と見なされる高齢者の負担増に直結します。同時に、見直しが不十分であれば、現役世代の保険料負担がさらに重くなる可能性があります。

見過ごせない課題:高額療養費制度と「命のセーフティネット」

高齢者の窓口負担拡大の議論の裏側には、病気や怪我で医療費が高額になった場合の「高額療養費制度」の見直しがあります。この制度は、特に長期にわたり高額な治療を必要とする患者にとって「命に直結する重要なセーフティネット」です。

  1. 長期療養者の「治療中断」への不安
    患者団体からは、高額療養費の自己負担限度額が引き上げられた場合、以下の懸念が示されています: 

    • 治療の中断が増加するのではないか。
    • 高額な新薬(分子標的薬、生物学的製剤など)を使う患者にとって、家計への影響は極めて大きい。
    • 特に長期療養者にとっての経済的な配慮が十分にされているか不安がある。
    • 実際に、がん患者の約4分の1(24.2%)が、医療費の金銭的負担が原因で生活に影響があったと回答しており、貯蓄の切り崩しや食費・衣料費を削るといった影響が出ています。
  2. 単純な負担増は現役世代の救いにならない?
    医療保険の運営側からも、「3割負担の対象を単純に増やしただけでは、高齢者医療を支える現役世代の負担がさらに重くなる」との指摘があります。

これは、3割負担の医療費には公費(税金)が投入されないため、現役世代の支援金への依存が高まるためです。現役世代の負担軽減を実現するには、安定した公費財源の確保とセットで改革を行う必要があります。

市民が考えるべきこと:「支え合う仕組み」をどう守るか

CCLは、持続可能な社会保障制度を構築し、釧路の地域医療を守るために、以下の視点が重要だと考えます。

  1. 長期療養者への最大限の配慮: 制度を見直す場合でも、低所得者や長期にわたり治療を継続する方々への「命のセーフティネット」を絶対に弱めてはいけません。例えば、自己負担限度額に年間の上限を設けるなどの制度的配慮が求められます。
  2. 公費と保険料のバランス: 現役世代の負担を軽減するためには、高齢者への窓口負担の適正化だけでなく、医療費全体の財源構造(自己負担、保険料、公費のバランス)を根本的に議論する必要があります。
  3. 地域医療の効率化・連携強化: 釧路管内のような地方において、質の高い医療を効率的に提供するための多職種連携(「くくる」)や医療・介護のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めることが、医療費の適正化、ひいては全世代の負担抑制につながります。

私たち市民一人ひとりが、この国の議論を「自分ごと」として捉え、制度への理解を深めるとともに、地域で「お互いを支え合う」仕組みを再構築していくことが、持続可能な未来への鍵となります。