Date:2025.11.15
高齢者の「終の棲家」を守る!有料老人ホームの新しいルール作りが国の検討会で進行中
知っておきたい!国の検討会がまとめた「有料老人ホームの未来」
皆さんが人生の最期まで安心して、尊厳をもって暮らせる場所――それが有料老人ホームです 。
近年、団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」を控え、有料老人ホームは、医療・介護のニーズが増大する高齢者の「終の棲家」としての役割がますます重要になっています 。しかし、その多様な発展の裏側で、一部の施設運営に関する深刻な課題が浮き彫りになってきました 。
この状況を受け、厚生労働省の「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」で集中的な議論が重ねられ、このたび重要な「とりまとめ(案)」が発表されました。これは、入居者の「安心・安全の確保」と「納得できるサービス選択」を実現するための、未来に向けた大きな制度改革の方向性を示すものです 。
なぜ今、ルールを見直す必要があるのか? – 現場で起きた深刻な事態
有料老人ホーム、特に「住宅型」と呼ばれる類型において、いくつかの重大な問題が指摘されています。
1. サービスの不適切提供(いわゆる「囲い込み」)の問題
一部の事業者が、家賃を不当に安く設定して入居者を集め、その不足分を補うために、入居者のニーズを超えた過剰な介護保険サービスを提供している実態が長年にわたり指摘されてきました。これは「囲い込み」と呼ばれ、介護保険給付の不適切な費消という問題だけでなく、高齢者の心身の状態を悪化させたり、不適切なケアや高齢者虐待につながるリスクもはらんでいます 。事実、「住宅型」有料老人ホームにおける高齢者虐待の判断件数の割合が増加している状況が明らかになっています。
2. 事業運営の継続性と透明性の問題
最も衝撃的だったのは、令和6年秋頃に全国の複数施設で発生した事案です。経営が行き詰まり職員への給料が未払いとなったことで、職員が一斉に退職し、入居者全員が短期間に他の施設への転居を余儀なくされました。また、入居者を紹介する事業者への高額な手数料(要介護度や病状に応じた「値付け」と疑われる事例も)が支払われている課題も浮き彫りになり、社会保障費の使途の適切性に疑念を持たれる事態となりました 。
高齢者の尊厳を守る!新しいルールが目指す3つの柱
この「とりまとめ(案)」では、これらの問題の根本的な解決を目指し、高齢者の尊厳の保持と自立した生活の継続を基本に、具体的な対策を打ち出しています。
1. 安全とサービスの質の確保:行政の関与を強化し「底上げ」へ
現在、有料老人ホームの運営は主に「届出制」に基づいており、行政指導に強制力が伴いにくいという限界がありました。これに対し、新しいルールでは、特に安全性の確保が強く求められるホームへの規制を強化します。
- 「登録制」といった事前規制の導入を検討: 中重度の要介護者、医療的ケアが必要な方、または認知症の方を主に入居対象とする有料老人ホームに対しては、行政が関与する「登録制」などの事前規制を導入する方向です。これにより、事業開始前に適切な体制が整っているかを確認できるようになります。
- 全国統一の基準を法令に: 有料老人ホームの職員配置、設備基準、虐待防止措置、介護事故防止措置などを、地域や自治体の解釈に左右されない統一的な法令上の基準として設ける必要があります 。これにより、夜間の緊急時対応を含め、最低限の安全性を確保します。
- 運営と会計の透明化を徹底: 有料老人ホームと、それに併設・関連する介護サービス事業所との間で、職員の役割や責任範囲が曖昧にならないように基準を示します。さらに、住まい事業と介護サービス事業の会計を明確に分離独立させ、収支の妥当性を行政がチェックできる仕組みが必要です 。
- 第三者評価の活用: 事業者自身がサービスの質を改善し、入居者や家族が客観的にホームを比較検討できるよう、第三者評価の仕組みを制度的に位置付けることが有効とされています。
2. 契約と選択の自由の保障:情報提供の「見える化」と「誘導」の禁止
入居希望者が情報を精査し、自らの意思でサービスを選択できる環境を整えます 。
- 契約前の確実な情報提供: 契約書や重要事項説明書を、契約締結前に書面で説明・交付することを義務化します。特に、入居費用、別途必要となる費用、看取りの対応の可否など、トラブルになりやすい事項について明確な説明を求めます。
- 「囲い込み」につながる誘導の禁止: 有料老人ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所の利用を契約条件とすることや、その利用を条件に家賃優遇を行うこと、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を強要することなどを禁止する措置を設けます。入居者が信頼するケアマネジャーや介護サービスを自由に選択し、継続して利用できることが原則となります 。
- 情報公表システムの充実: 入居希望者やその家族、さらには医療ソーシャルワーカーなどが活用しやすいよう、有料老人ホームの情報を条件検索・比較が容易にできるシステムを構築します。
3. 入居者紹介事業の適正化:不透明なビジネスモデルの是正
高齢者の住宅選びを支援する紹介事業者の運営の透明性を高め、手数料に起因するサービスの不適切化を防ぎます 25。
- 紹介手数料の適正化を公表: 紹介事業者には、高齢者や家族に対して自らの立場を明確に説明し、中立的な立場から正確な情報を提供するよう求められます 。また、紹介手数料の算定方法を、要介護度ではなく、月当たりの居住費用をベースに算定することが適切と提言されています 。
- 優良事業者の認定: 事業者団体が実施する届出公表制度を前提に、一定の基準を満たした事業者を優良事業者として認定する仕組みの創設が有効とされています 。
NPO法人CCLから皆様へ
今回の国の検討会の提言は、有料老人ホームを単なる不動産事業ではなく、「高齢者が尊厳を保ちながら自立した暮らしを継続できる」という、高齢者福祉の重要な社会インフラとして位置づけ直すものです。
NPO法人CCLは、この新しい制度の動きを歓迎し、引き続き、高齢者の方が新しいルールのもとで真に安心して住まいを選択し、自分らしい人生を全うできるよう、以下の活動を強化してまいります。
- 情報提供の徹底: 新しい制度や基準について、高齢者やご家族に分かりやすい形で発信し続けます。
- 相談支援の充実: 複雑な契約内容や、サービス選択時の不安について、専門的な機関とも連携し、ワンストップで相談できる窓口を支援します。
- 地域連携の促進: 有料老人ホームが地域の中で「閉じた存在」になることなく、地域交流や医療・介護連携会議への参加を通じて、地域に対する透明性を高めることを促します 。
安心できる「終の棲家」選びのために、ぜひこの制度改革の動きにご注目ください。
▶︎ 次の一歩: 入居契約やサービス選択に関するご相談、地域の適切な相談先の情報提供など、ご不明点があればすぐにお問い合わせください。