Date:2025.09.08
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)〜「人生会議」という対話のプロセス〜 【第2回】
第2回:ACP普及の課題と今後の展望
ACPの全国的な普及には、乗り越えるべきいくつかの課題が存在します。同時に、その課題を解決するための成功要因も明らかになっています。
ACP普及を阻む主な課題
- 心理的・文化的な障壁: 「死」や「終末期」の話題を避けたいという患者・家族側の心理や、「言わずとも察してほしい」という日本の文化的な背景は、ACPの核心である「対話と明示」と相反する側面を持っています。
- 医療・社会システム上の制約: 医療機関のマンパワー不足や、多職種・多施設間での情報共有の仕組みが不十分であることも、ACPの実践を阻む大きな要因です。
- 評価指標の欠如と倫理的ジレンマ: ACPを実践しても評価する指標がないため、医療従事者が自身の取り組みの有効性を客観的に判断できず、また、患者の意向を尊重することが、時に医療者の職業倫理と衝突するジレンマも生じています。
今後の展望と提言:持続可能なACP実践に向けて これらの課題を乗り越え、ACPを社会全体に定着させるためには、戦略的なアプローチと多層的なシステム構築が不可欠です。
- 効果的な研修プログラムの普及: 共有意思決定支援(SDM)の技能を取り入れたオンライン研修プログラムを全国に展開することで、地理的な制約を克服し、多くの専門職が実践的なスキルを習得できるようになります。
- 多職種・多施設間連携の強化: 専門職同士が顔の見える関係を築き、互いの専門性を理解し合う「人間的なつながり」は、複雑な意思決定を伴うACPを円滑に進める上で極めて重要です。地域包括ケアシステムにおいて、このネットワークを意図的に構築・強化することが求められます。
- 既存プロセスへの統合とツールの活用: 日常の医療・ケアの中にACPの要素を組み込んだり、記録ツールや情報共有システムを活用したりすることで、患者の意思や価値観を「可視化」し、継続性と一貫性を担保できます。
- 国民全体の意識変革: 「人生会議」という言葉を社会全体の共通言語として定着させ、国民一人ひとりがACPを「自分ごと」として捉えるための意識啓発を継続することが重要です。
ACPは、単なる医療行為の事前指示ではなく、個人の尊厳ある生き方を支え、地域共生社会を築くための「対話と協働のプロセス」として、その意義をさらに深化させていくことが期待されます。
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