Date:2025.09.01

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)〜「人生会議」という対話のプロセス〜 【第1回】

第1回:超高齢社会におけるACPの意義と全国的な取り組み

超高齢社会が急速に進む日本において、私たちが直面する大きな課題の一つが、人生の最終段階における医療やケアをどのように迎えるかという問題です。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、ご自身の価値観を明確にし、将来の治療やケアの希望について、ご家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合うプロセスです。この取り組みは、ご自身が主体的に意思決定を行うことが困難になった場合でも、これまでの対話を通じて、ご本人の意思が尊重された医療・ケアを実現することを目的としています。

国の取り組み:「人生会議」という愛称の導入

厚生労働省は、2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂し、ACPの実践と普及を明確に位置づけました。このガイドラインは、在宅医療や介護の現場でも活用できるよう見直され、介護従事者も医療・ケアチームに含まれることが明記されました。さらに、従来のACPという専門用語が持つ終末期医療の重い印象を和らげ、国民がより身近なものとして捉えられるよう、「人生会議」という愛称を導入し、普及啓発に努めています。

全国に広がる多角的な取り組み ACPの普及啓発は、国、専門職団体、そして地方自治体がそれぞれの役割を活かし、多角的なアプローチで推進されています。

  • 専門職団体による研修: 日本アドバンス・ケア・プランニング研究会や国立長寿医療研究センターは、医療・介護従事者向けの研修プログラムを開発し、ACPの実践スキル向上を図っています。特に、医療者と患者が共に意思決定を行う「共有意思決定支援(SDM)」を取り入れた研修は、国内の臨床倫理の規範におけるパラダイムシフトをもたらすと期待されています。
  • 地方自治体による創意工夫: 各自治体は、国のガイドラインを基盤としつつ、地域の実情や住民のニーズに合わせた独自の活動を展開しています。例えば、東京都の「わたしの思い手帳」や、広島市の漫画を用いたリーフレット、豊田市の具体的な事例集などは、住民がACPを「自分ごと」として捉え、話し合いのきっかけを得る上で非常に有効な取り組みです。

これらの取り組みは、ACPの普及が、国の一律的な施策だけでなく、地域レベルでの柔軟な対応によって、より効果的に進められる可能性を示唆しています。

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