Date:2025.08.24
【連載】医療と介護のICT連携:超高齢社会を乗り越えるカギ(4)
課題解決に向けたアプローチと成功要因、そして将来展望
医療と介護の連携におけるICT化の課題を克服し、その潜在能力を最大限に引き出すためには、多角的なアプローチと戦略的な取り組みが不可欠です。
1. 標準化と相互運用性の推進策
厚生労働省が推進する「全国医療情報プラットフォーム」は、現在個別に管理されている患者さんの医療情報を一元化し、異なる医療機関間での効率的な利用を目指すものです。
これにより、患者さん自身も自身の医療情報に直接アクセスできるようになり、主体的な健康管理が可能となります。
また、電子カルテ情報のフォーマットと互換性を標準化することが非常に重要です。
特に電子カルテの普及率が低い診療所向けに、標準型電子カルテの開発が進められています。
紙の処方箋を電子化しクラウド上で一元管理する電子処方箋管理サービスの普及も、重複投薬の防止や調剤プロセスの効率化に貢献します。
2. 財政支援の拡充と費用対効果の明確化
ICT化に対する補助金制度を積極的に活用することが求められます。
国や行政は、ICT機器やソフトウェアの導入費用を支援する制度を用意しており、これらを最大限に活用すべきです。
導入に際しては、現場の業務フローを詳細に確認し、システム導入の目的と具体的な費用対効果を明確に試算することが重要です。
神戸市のPHR(Personal Health Record)システム導入事例では年間4億円の介護給付費抑制効果が試算されており、このような具体的な効果を現場スタッフに共有することで、導入の必要性を理解させ、運用への協力を促すことができます。
3. 包括的な人材育成と組織文化の変革
職員のICTスキル習得と情報管理に関する研修を定期的かつ複数回実施し、学習時間を確保することが重要です。
必要に応じて外部講師やコンサルタントに依頼し、基礎的な操作から応用まで段階的にスキルアップを図ることも有効です。
ICTを効果的に活用するためには、ITに関する知識やスキルを持ったデジタル人材が不可欠です。DX推進チームの設置、リーダーシップを発揮できる人材の育成、外部からの専門家の採用などにより、デジタル人材の確保・育成に力を入れる必要があります。
また、「ICT導入は余計な業務が増える」という職員の抵抗感を減らし、「業務効率を上げ、より質の高いケアを提供するために必要」だと職員に理解してもらうことが重要です distressing for workers. ICT化により取り残される職員が出ないよう配慮し、誰もが使いやすい機器やシステムの選定も鍵となります。
4. 強固なセキュリティ対策とガイドライン整備
患者さんの機密情報を扱うため、不正アクセス対策、情報漏洩対策、ウイルス対策など、多岐にわたるセキュリティ対策を講じる必要があります。パスワードの設定方法やデータの持ち出しルールなど、基本的な対策の徹底も個人情報漏洩防止に不可欠です。
サイバー攻撃や災害などでシステムが停止した場合に備え、エラー時の対応計画を事前に検討し、事業継続計画(BCP)に組み込むべきです。
患者データの扱い方や医療過誤への対応など、ICT化に伴う法制度の整備が遅れている現状を鑑み、国による法整備の加速が求められます。
5. 地域特性に応じた柔軟な導入と運用戦略
地域の実情に応じた柔軟な対応を取りながら、段階的に連携体制を強化していくことが、持続可能な医療介護連携の実現には不可欠です。過疎地域などでは、住民による検討委員会やボランティアを巻き込んだ活動など、地域主体の仕組みづくりが成功事例として挙げられます。
地域格差を是正するため、国や都道府県が地方自治体への財政支援を拡充し、特に過疎地域や高齢化率の高い地域に対しては重点的な支援を行う必要があります。財政支援だけでなく、人材育成やノウハウの提供などの支援も重要です。
情報ICT化がもたらす効果と将来展望
医療と介護の連携における情報ICT化は、日本の医療・介護システムの将来像を大きく変革する可能性を秘めています。
- 業務効率化と医療・介護従事者の負担軽減: 電子カルテや介護記録ソフト、チャットツールなどの導入により、事務作業や情報共有の効率が大幅に向上し、職員の精神的・肉体的負担が軽減されます。これは、残業時間の削減や離職防止にも繋がり、働きがいのある職場環境の実現に貢献します。
- サービス品質の向上と患者・利用者の利便性向上: ICT化はケアの質の向上に直結します。利用者さんの状態変化に迅速かつ適切に対応できるようになり、転倒事故防止などの安全確保に繋がります。オンライン診療の普及は、通院の手間や院内感染のリスクを軽減し、遠隔地や移動が難しい高齢者も自宅から専門医の診察を受けられるようになります。
- 地域医療格差の是正と医療資源の有効活用: ICT化は地域医療格差の是正に貢献します。オンライン診療が普及すれば、医療従事者の不足する地域にも遠隔で医療を提供できるようになり、全国どこでも質の高い医療を受けられる可能性が高まります。
- 新たな医療・介護サービスの創出と医学研究の推進: AI診断支援や医療ロボットの導入など、新たな医療・介護サービスの創出を可能にします。また、大規模な患者データを簡単に管理・分析できるようになるため、新薬開発や治療法開発の研究が活性化し、より効果的な医療の提供に繋がるでしょう。
厚生労働省が掲げる「医療DX令和ビジョン2030」は、これらの変革を通じて、日本が「デジタル医療国家」となることを目標としています。
結論
医療と介護の連携における情報のICT化は、超高齢社会を迎える日本にとって不可欠な国家戦略です。
現在、様々なICT導入事例が見られ、業務効率化やサービス品質向上に貢献していますが、その道のりは平坦ではありません。
情報共有の課題、高額なコスト、ITリテラシーの不足、セキュリティリスク、法制度の遅れ、地域格差といった複合的な課題が山積しています。
これらの課題を克服し、ICT化の真の恩恵を享受するためには、標準化の徹底、財政支援の拡充、そして何よりも包括的な人材育成と組織文化の変革が求められます。
単に技術を導入するだけでなく、それが現場のワークフローに円滑に統合され、職員がその価値を実感し、積極的に活用できるような環境を整備することが成功の鍵となります。
将来的に、ICT化は医療・介護従事者の負担軽減、サービス品質の向上、地域医療格差の是正、そして新たな医療・介護サービスの創出と医学研究の推進に大きく貢献するでしょう。
これらの変革を通じて、日本は持続可能で質の高い、そして誰もが安心して暮らせる医療・介護システムを実現できる可能性を秘めています。
そのためには、政府、医療機関、介護事業所、そして国民が一体となり、現状の課題に真摯に向き合い、包括的かつ柔軟な戦略を実行していくことが不可欠です。
特定非営利活動法人CCLでは、超高齢社会における医療と介護のより良い連携を目指し、様々な活動を行っています。
今後も、ICTを活用した地域包括ケアシステムの実現に向けて、情報発信を続けてまいります。