Date:2025.08.17

【連載】医療と介護のICT連携:超高齢社会を乗り越えるカギ(3)

ICT化が直面する主要な課題

医療と介護の連携におけるICT化は、多くの期待を集めている一方で、その導入と普及には複合的な課題が山積しています。
これらの課題は互いに関連し合い、ICT化の進展を阻害する「悪循環」を生み出す可能性があります。

 

1. 情報共有と相互運用性の課題

医療機関と介護事業所の間、あるいは異なるベンダーが提供するシステム間で、スムーズなデータ連携ができないという問題が依然として存在します。
例えば、地域医療連携ネットワークがせっかく構築されても、一部で全く利用されていない、あるいは利用が低調であると指摘されているケースもあります。

特に在宅医療・介護の分野では、システムの規格がベンダーごとにバラバラであるため、共有すべき情報やシステムの「標準化」が急務とされています。また、紙での記録とデジタルでの記録が混在している現状も、情報共有を複雑にしています。

大規模病院では、セキュリティポリシーなどの理由から情報連携システムを導入しないケースもあり、これが地域全体の連携体制構築を妨げている要因とも考えられます。

 

2. 導入・運用コストと財政的課題

ICT環境を整備するためには、初期導入コストが高額になりがちです。通信環境の整備、端末の購入、システム導入にかかる費用は、特に中小規模の事業所にとって大きな負担となります。
さらに、導入後の通信費や機器トラブル時の修理費用など、維持費も継続的に発生します。

導入コストが高いにもかかわらず、その費用対効果や将来的なメリットを正確に測る知識が不足しているため、多くの事業所が導入に踏み切れないでいます。
介護事業所の多くは経営状況が厳しく、人件費を削れない中でITコストを捻出する余裕がない場合が多いのも実情です。

 

3. 人材育成とITリテラシーの課題

介護業界は他業界に比べ平均年齢が高く、長年紙や印鑑での業務に慣れてきた職員が多くいます。
そのため、電子機器に対して苦手意識や抵抗感を持っている人が少なくありません。
せっかくシステムを導入しても使いこなせない、運用体制が構築できない、あるいはICT化についていけない職員が離職してしまうリスクも存在します。

医療・介護分野において、ICTを効果的に活用するためのITに関する知識やスキルを持ったデジタル人材が不足しているのも現状です。
システムのトラブルシューティングやメンテナンスなど、専門的な知識が必要な作業に対応できる人材が不足し、外部ベンダーへの外注が必要になることもあります。

 

4. 情報セキュリティとプライバシー保護の課題

患者さんや利用者さんの非常に機密性の高い個人情報をデータ化することで、情報漏洩やハッキングのリスクが高まります。
医療分野はサイバー攻撃の標的になりやすく、ランサムウェア攻撃などによりシステムが麻痺し、人命に関わる甚大な影響が出るリスクも指摘されています。

また、蓄積された患者データの扱い方やセキュリティ対策に関する法制度の整備が追いついていないことも、医療機関がICT化に足踏みする要因となっています。

 

5. 法規制・制度整備の遅れと地域格差

介護業界では、利用者との契約や重要事項説明書など、多くの書類に捺印が必要とされ、電子データでの契約がようやく認められるようになるなど、行政側のデジタル化の遅れが現場のICT化を阻害してきた背景があります。

地域包括ケアシステムの整備状況は地域によって大きな差があり、都市部では進んでいても、地方や過疎地域では人材不足や財源不足が深刻で、十分なサービスを提供できていないのが現状です。
ICT化の程度も医療機関によって差があり、ICT化がかえって医療格差を拡大させるリスクも懸念されています。

これらの課題は、単一で解決できるものではなく、お互いに複雑に絡み合っています。
例えば、高い導入コストはICT投資や職員研修を制限し、それがITリテラシーの低さや導入への抵抗につながります。
結果として、システムが効果的に活用されず、投資対効果が見込めなくなるという「悪循環」を生み出しています。

つまり、ICT導入は単なる技術的な問題ではなく、「人」を中心とした組織変革管理と人材育成のプロジェクトなのです。
次回は、これらの課題をどのように克服し、ICT化を成功させるか、具体的なアプローチと成功要因について探ります。