Date:2025.08.10
【連載】医療と介護のICT連携:超高齢社会を乗り越えるカギ(2)
医療と介護現場でのICT活用事例
医療と介護の現場では、業務効率化やサービス品質の向上、多職種連携の強化を目指し、すでにICTの導入が進められています。ここでは、それぞれの分野での具体的な活用事例をご紹介します。
医療分野におけるICT活用事例
医療現場では、遠隔医療や診療情報の電子化が進んでいます。
- 遠隔医療・診断: 遠隔地の専門医が画像や動画を活用して診断や助言を行ったり、緊急時に24時間体制で相談に乗ったりするシステムが導入されています。これにより、医師の移動負担が軽減され、特に医療資源が少ない地域での医療サービスの充実が期待されています。例えば、松山赤十字病院では、訪問看護師が患者さんの画像を共有することで、腹膜透析患者さんの早期異常発見に繋げています。
- 電子カルテシステム: 診療記録を紙から電子データにすることで、業務効率化が図られています。ただし、大規模病院での普及率は高い一方で、小規模な診療所ではまだ導入が進んでいない現状があります。
- 地域医療連携ネットワークシステム(地連NW): 地域内の複数の医療機関で、患者さんの放射線画像や電子カルテ情報、検査結果などを共有するシステムです。「ID-Link」や「ピカピカリンク」などがその代表例で、これによって検査や薬の重複が減り、災害時にもスムーズな医療継続が可能になるなど、診療の質の向上に貢献しています。
介護分野におけるICT活用事例
介護現場でも、業務負担の軽減や利用者さんの安全確保のためにICTが活用されています。
- 介護記録ソフト: 利用者さんのケアプランや介護記録などをパソコンやタブレットで共有するシステムです。紙での記録に比べて、記録にかかる時間が大幅に削減され、転記ミスが減り、リアルタイムでの情報共有によって申し送りの時間も短縮されています。
- 見守りシステム: ベッドや壁にセンサーを設置し、利用者さんの心拍数や呼吸数、離床、転倒などを把握するシステムです。これにより、職員の訪室回数を減らし、夜間の業務負担を軽減しながら、利用者さんの安全を確保し、一人ひとりに合わせたきめ細やかなケアを提供できるようになっています。
- 情報共有・コミュニケーションツール: 事業所内での報告・連絡・相談に、チャットツール(ChatWorkなど)やグループウェア(LINE WORKSなど)が使われています。電話連絡の時間を半減させ、情報伝達の正確性を高めることで、職員のストレス軽減や離職防止にも繋がっています。また、スマートフォンやタブレットを使った家族とのオンライン面会も普及しています。
- その他: シフト作成の自動化システムや、排泄予測機器による適切なトイレ誘導、勤怠管理システムなど、多岐にわたるICTが業務効率化に寄与しています。
地域包括ケアシステムにおけるICT連携の取り組み
医療と介護が一体となって地域で高齢者を支える「地域包括ケアシステム」でも、ICTを活用した情報連携が進んでいます。
- 情報プラットフォーム: 福岡市や神戸市などでは、地域住民の健康情報を一元的に管理し、医療・介護の関係者間で共有できる情報プラットフォームの構築が進められています。これにより、介護予防事業への参加促進や、介護給付費の抑制といった具体的な効果が報告されています。
- 多職種連携ツール: 訪問看護師、ヘルパー、ケアマネジャーなど、様々な職種がリアルタイムで情報共有できるツールが導入され、利用者さんの状態変化に迅速に対応できるようになっています。
政府も「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、2030年までにデジタル医療国家となることを目標に、「全国医療情報プラットフォーム」の創設や電子カルテ情報の標準化、マイナンバーカードと健康保険証の一体化などを推進しています。また、2024年度の診療報酬改定では、ICT導入・活用体制に対する新たな加算も新設され、ICT化への取り組みが評価されるようになってきました。
このように、医療と介護の現場では、様々な形でICTの導入が進み、その効果も現れ始めています。しかし、その一方で、ICT化を進める上で乗り越えなければならない課題も山積しています。次回は、その「課題」について詳しく見ていきます。