Date:2025.07.07

在宅医療介護連携と身寄りのない人への支援:包括的分析と政策提言(第2回)

2. 在宅医療介護連携の現状と課題(続き)

地域差への対応と広域連携の推進

高齢化の進展状況には大きな地域差があり、人口が横ばいながら75歳以上人口が急増する大都市部と、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部では、それぞれ異なる課題を抱えています。在宅医療・介護連携推進事業の実施状況も、市町村の人口規模によって進捗に違いが見られ、特に人口規模が小さい市町村ほど実施率が低い傾向にあります。

このような人口構造の地域差は、在宅医療・介護連携のモデル構築を複雑化させています。一律の連携モデルでは、多様な地域の実情に対応しきれないためです。大都市部では人口密度が高くサービス提供者が多い一方で、過密による連携の複雑さや、身寄りのない高齢者の絶対数の増加が課題となります。一方、町村部では人口減少と高齢化の複合的な影響により、サービス提供者自体が不足し、広域連携が不可欠となります。

地域特性を考慮しない画一的な政策は、いずれかの地域で機能不全を引き起こす可能性があります。例えば、大都市向けの集約型モデルは、過疎地域ではサービス提供網の維持が困難になり、逆に過疎地域向けの広域連携モデルは、大都市では非効率になる可能性があります。

この地域差は、地域包括ケアシステムの「地域」という本質的な要素に深く関わっており、地域の実情に応じた柔軟な計画策定と、国や都道府県によるきめ細やかな支援(例えば、小規模自治体への重点的な人材・財政支援)がなければ、全国的なシステムの均質化は困難であり、結果として住民の居住地によって受けられる医療・介護の質に格差が生じることになります。

小規模自治体においては、事業推進を担う人材の確保が特に困難であり、都道府県や保健所のバックアップが不可欠とされています。また、複数の市町村による広域連携は、効果的かつ効率的な事業推進に繋がると考えられますが、隣接する市区町村との調整が複雑であり、その推進が課題として挙げられています。

地域における具体的な課題事例(釧路市を例に)

北海道釧路市では、高齢化の進行と人口減少が複合的に作用し、医療・介護サービスの提供体制が大きな課題に直面しています。釧路地域における医療・介護サービスの現状と課題を把握するためのアンケート調査では、「医師不足」「専門医不足」「人材不足」「救急医療への不安」「施設サービスの不足」「医療・介護連携の難しさ」といった課題が浮き彫りになっています。

特に、在宅医療を担う医師の不足、精神科医療や小児科医療の不足、地域による専門医の偏在が指摘されており、これらの複合的な人材・資源不足が在宅医療介護連携のボトルネックとなっています。

このような地方都市における複合的な課題は、単一の職種やサービスの問題ではなく、医療・介護提供体制全体の基盤が脆弱であることを示しています。医師が不足すれば在宅医療の提供が困難になり、施設が不足すれば在宅での看取りや急変時の入院受け入れが困難になります。人材不足は、既存の医療・介護従事者の負担増大に繋がり、これが離職を促し、さらなる人材不足を引き起こす悪循環を生みます。また、専門医の偏在は、特定の疾患を持つ患者が適切な医療を受けられない事態を招き、より高度な医療ニーズを持つ高齢者の在宅移行を阻害します。

これは、地域包括ケアシステムの理念である「住み慣れた地域で最期まで暮らす」ことを実現するための深刻な障壁であり、単なる医療・介護政策の範疇を超え、地方創生や人口減少対策といったより広範な社会政策と連携した抜本的な対策が必要であることを示唆しています。

釧路市では、これらの課題に対応するため、地域ケア会議を通じて在宅医療・介護連携推進部会、生活支援体制整備部会、認知症施策推進部会を設立し、切れ目のない在宅医療と介護の提供に向けた情報共有の促進や、地域課題の協議を行っています。例えば、阿寒地区ではオンライン診療の導入、音別地区ではリハビリ職参加の個別会議、西部地区では広域性を考慮した4地区での会議開催など、地域の実情に応じた取り組みが進められています。これらの取り組みは、地域の実情に合わせた柔軟な対応の重要性を示しています。