Date:2024.06.13

地域共生社会の実現とソーシャルワーク 誰もが安心して暮らせる地域を共に創る

現代の日本社会は、少子高齢化や核家族化が進み、地域社会のつながりが薄れる中で、個人や世帯が抱える課題は複雑になっています。例えば、「8050問題」や「ダブルケア」のように、一つの問題が他の問題と深く結びついているケースが増えています。このような状況に対し、厚生労働省は、誰もが孤立せず、共に支え合いながら暮らせる社会「地域共生社会」の実現を目指しています。この目標達成に不可欠な役割を担うのが、社会福祉の専門職であるソーシャルワーカーです。本記事では、地域共生社会の理念と、ソーシャルワークの役割について解説します。

1.地域共生社会とは?

厚生労働省は「地域共生社会」を、制度や分野の壁、支援する側と受ける側という関係を超えて、地域に住む人々や様々な団体が主体的に関わり合い、世代や分野を超えて「丸ごと」つながることで、誰もが安心して自分らしく暮らせる地域を共に創っていく社会と定義しています。

ポイント

  • 縦割りを超えて: 介護、障害、子ども・子育て、生活困窮など、分野ごとの専門性を活かしつつ、連携して課題に対応します。
  • 支え手・受け手を超えて: 支援する側、される側という固定的な関係ではなく、お互いに支え合う関係を目指します。
  • 世代・分野を超えて: 高齢者、障害者、子どもだけでなく、地域に住む全ての人が対象です。福祉だけでなく、まちづくり、産業、環境など、様々な分野との連携を重視します。
  • 「我が事」として参画: 地域の問題を他人事ではなく、自分自身の問題として捉え、主体的に関わることが大切です。
  • 「丸ごと」つながる: 一人ひとりの複雑な課題に対し、関係機関や地域の資源が一体となって支援を提供します。

地域共生社会の目的は、全ての人が地域で生きがいを持ち、安心して暮らせるようにすること。その理念は、社会福祉法にも定められているように、「地域住民が互いに人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現」です。

2.ソーシャルワークとは?

ソーシャルワークは、社会の変化や発展、人々の結びつき、そして人々の力を高めることを目指す、実践的な専門職であり、学ぶべき学問です。その中心にあるのは、「社会正義」「人権」「共に生きる責任」「多様性の尊重」という考え方です。

ソーシャルワーカーの役割

ソーシャルワーカーは、人々が抱える様々な生活上の課題に対し、その人自身が持っている力や、周りの資源を活用しながら解決できるよう支援します。

  • 相談・支援: 困っている人の相談に乗り、解決策を探します。
  • 情報提供: 利用できる制度やサービスを分かりやすく伝えます。
  • 関係機関との連携: 必要に応じて、医療機関や行政など、様々な機関と連携を取ります。
  • 権利擁護: その人の権利を守り、声を代弁します。
  • 地域づくり: 地域の人々が協力して、より良い地域社会を築けるよう働きかけます。

ソーシャルワーカーは、常に「人間の尊厳」「人権」「社会正義」といった倫理的な原則に基づき、人々の自己決定を尊重し、共に課題解決を目指します。

3.地域共生社会とソーシャルワークの連携

地域共生社会が目指す「誰もが包摂され、共に生きる社会」は、ソーシャルワークが大切にする価値観と深く結びついています。

  • 包括性: 全ての人が地域社会の一員として受け入れられる社会を目指す点は、「人間の尊厳」を重視するソーシャルワークの理念と一致します。
  • 住民主体性: 地域の問題は住民自身が主体的に解決するという考え方は、ソーシャルワークにおける「自己決定の尊重」や「エンパワメント」に通じます。
  • 相互扶助: 住民同士が支え合う関係は、ソーシャルワークの「共に生きる責任」という倫理観と深く関連しています。
  • 多機関協働: 様々な機関や専門職が連携して支援することは、ソーシャルワークが重視するネットワークづくりと合致します。
  • 地域づくり: 地域全体で福祉を高めるという目標は、ソーシャルワークの地域援助(コミュニティワーク)と同じ方向を向いています。

このように、地域共生社会の理念とソーシャルワークの専門性は、互いに補完し合い、より良い社会の実現に向けて協力していく関係にあります。

4.政策におけるソーシャルワークの役割

地域共生社会の実現に向けた国の様々な政策において、ソーシャルワーカーは重要な役割を担っています。

  • 地域包括ケアシステム: 高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、医療、介護、予防、生活支援などを連携させる仕組みの中で、ソーシャルワーカーは相談支援、権利擁護、多職種連携の要として活躍します。
  • 生活困窮者自立支援制度: 生活に困窮している人に対し、ソーシャルワーカーは相談を受け、一人ひとりに合わせた支援計画を作成し、就労支援や住居確保など、様々なサポートを行います。
  • ひきこもり支援: 長期にわたるひきこもり状態にある人やその家族に対し、ソーシャルワーカーは専門的な相談、アウトリーチ、関係機関との連携などを行い、社会参加を支援します。
  • 重層的支援体制整備事業: 高齢、障害、子ども、生活困窮など、分野ごとに分かれていた相談支援体制を連携させ、複雑な問題を抱える人に対し、ソーシャルワーカーは包括的な相談、多機関協働の調整、アウトリーチなどを行います。

5.実践事例から学ぶ

全国各地で、ソーシャルワーカーが中心となり、地域共生社会の実現に向けた様々な取り組みが行われています。

  • 居場所づくり: 地域住民が集まれるカフェやサロンを開設し、交流を促進しています。
  • 生活支援: 高齢者や子育て家庭への食事支援や見守り活動などを行っています。
  • 複雑な課題への対応: 8050問題や虐待など、複数の課題を抱える世帯に対し、関係機関と連携して支援を行っています。
  • 地域資源の活用: 空き家などを活用し、地域活動の拠点を作っています。

これらの事例から、ソーシャルワーカーが、個別の支援だけでなく、地域全体のつながりを強化し、住民が主体的に活動できるようサポートする重要な役割を果たしていることが分かります。

6.地域共生社会におけるソーシャルワークの課題

地域共生社会の実現に向けて、ソーシャルワークは多くの貢献をしていますが、いくつかの課題も存在します。

  • 役割の明確化: 広い範囲で活動するため、ソーシャルワーカーの役割が曖昧に見られることがあります。
  • 多職種連携の難しさ: 異なる専門性を持つ人たちとの連携には、文化や考え方の違いから難しさがあります。
  • 人材育成: 地域共生社会に対応できる、より専門的な知識やスキルを持つソーシャルワーカーの育成が必要です。
  • 資源不足: 活動に必要な人材や資金が不足している場合があります。
  • 倫理的な悩み: 支援の中で、様々な倫理的な問題に直面することがあります。

これらの課題を克服するために、ソーシャルワーカー自身の専門性向上だけでなく、社会全体の理解と協力が不可欠です。

7.ソーシャルワークの未来

地域共生社会の実現に向けて、ソーシャルワークは今後さらに進化していくことが期待されます。

  • 予防的な支援: 問題が深刻化する前に、地域で早期に課題を発見し、支援を行う役割が重要になります。
  • 連携の要: 様々な機関や専門職をつなぎ、スムーズな支援の流れを作るコーディネーターとしての役割が強化されます。
  • 地域を元気にする: 個別支援だけでなく、地域全体の課題解決や住民の活動を支援する役割がより重要になります。
  • テクノロジーの活用: ICTを活用した情報共有やオンライン相談など、新しい支援方法が開発される可能性があります。

結論

地域共生社会の実現には、ソーシャルワーカーの専門性が不可欠です。ソーシャルワーカーは、個人と地域社会を結びつけ、誰もが安心して暮らせる地域を共に創るための重要な役割を担っています。その役割を十分に発揮できるよう、社会全体でソーシャルワークを支え、共に未来を築いていくことが求められています。