Date:2025.04.14

在宅医療・介護連携推進事業とは? 地域包括ケアシステム実現の鍵を分かりやすく解説

急速な高齢化が進む日本において、「住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを最期まで続けたい」と願う方が増えています。その実現のために不可欠なのが、医療と介護のスムーズな連携です。

この記事では、その連携を推進する重要な取り組みである「在宅医療・介護連携推進事業」について、厚生労働省の資料に基づき、分かりやすく解説します。
地域包括ケアシステムの実現に向けたこの事業の目的や内容、具体的な進め方を知り、私たち一人ひとりが地域でできることを考えるきっかけにしましょう。

なぜ今「在宅医療・介護連携」が重要なのか?

日本では、2025年には団塊の世代が75歳以上となり、後期高齢者の人口が急増します。さらに2040年に向けて85歳以上の人口も増え続け、医療と介護の両方を必要とする方がますます増加すると見込まれています。また、最期を迎える場所として、病院だけでなく自宅や介護施設等を希望する方も増えています。

このような状況の中、高齢者が重度な要介護状態となっても、可能な限り住み慣れた地域で安心して暮らし続けるためには、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が急務です。

そして、この地域包括ケアシステムを実現する上で、医療機関と介護サービス事業者等が緊密に連携し、切れ目のない支援を提供することが、まさに「在宅医療・介護連携」の核心であり、その推進役を担うのが「在宅医療・介護連携推進事業」なのです。

「在宅医療・介護連携推進事業」ってどんな事業?

この事業は、医療と介護の両方を必要とする高齢者が、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、市町村が中心となり、地域の医療機関や介護事業者等の関係機関と連携しながら、包括的かつ継続的な在宅医療・介護の提供体制を構築していく取り組みです。

具体的には、主に以下の8つの項目について、地域の実情に合わせて取り組みを進めます。

  1. 地域の医療・介護資源の把握
    • 地域の病院、診療所、歯科診療所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業所などの情報を収集し、リストやマップを作成して共有します。
  2. 在宅医療・介護連携の課題抽出と対応策の検討
    • 地域の医療・介護関係者が集まる会議などを開催し、連携する上での課題を見つけ、解決策を話し合います。
  3. 切れ目のない在宅医療と介護の提供体制の構築推進
    • 関係機関の協力を得て、必要なサービスが途切れることなく提供される体制づくりを進めます。
  4. 在宅医療・介護連携に関する相談支援
    • 医療・介護関係者や地域包括支援センターからの連携に関する相談に対応する窓口を設置し、コーディネーター等が情報提供や調整を行います。
  5. 地域住民への普及啓発
    • 講演会やパンフレット作成などを通じて、地域住民に在宅医療や介護サービス、看取りなどについて理解を深めてもらいます。
  6. 医療・介護関係者の情報共有の支援
    • 多職種間でスムーズに情報共有ができるよう、ICTツールや情報共有シートなどの活用を支援します。
  7. 医療・介護関係者の研修
    • 多職種連携や、在宅医療・介護に関する知識・技術向上のための研修会を実施します。
  8. その他、地域の実情に応じた取り組み:
    • 上記以外にも、地域に必要な連携強化策を実施します。

さらに、「在宅医療・介護連携推進事業の手引き Ver.4」では、認知症対応感染症発生時の対応災害時対応といった視点も重視され、平時から連携体制を整えておくことの重要性が示されています。

どうやって進めるの?成功のポイント「PDCAサイクル」

この事業を効果的に進めるためには、PDCAサイクル(Plan計画 → Do実行 → Check評価 → Act改善)に沿って、継続的に取り組みを見直していくことが重要です。

  • Plan(計画): まず地域の現状を分析し(医療・介護資源の量や分布、住民のニーズなど)、課題を明確にします。そして、地域の関係者(医師会、介護事業者、住民代表など)と協力して、「地域としてどのような状態を目指すのか」という目標を設定し、具体的な取り組み計画を立てます。
  • Do(実行): 計画に基づいて、相談窓口の運営、研修会の開催、情報共有ツールの作成・導入支援、普及啓発活動などの対応策を実施します。
  • Check(評価): 設定した目標に対して、取り組みがどの程度達成できたか、どのような効果があったかを評価指標(例:在宅看取り率の変化、連携に関する相談件数、研修参加者数など)を用いて評価します。
  • Act(改善): 評価結果を踏まえ、計画や取り組み内容を見直し、改善策を検討して次のサイクルにつなげます。

【取り組み事例:東京都稲城市】稲城市では、相談窓口の相談内容やアンケート調査、レセプトデータなどから現状を把握・分析(Plan)。その結果を基に、医療と介護の関係者が集まる検討会で具体的な課題について議論し、目標を設定(Plan)。例えば、「必要な人に訪問診療が利用されていない」という課題に対し、「訪問診療医ガイド」を作成して情報提供を行うなどの対応策を実施(Do)。
その後、アンケート調査などで効果測定を行い(Check)、次の改善策につなげる(Act)というPDCAサイクルを意識した事業展開を行っています。

様々な場面での連携がカギ

高齢者の状態は変化し、様々な場面で医療・介護の連携が必要となります。特に以下の場面を意識した連携体制の構築が重要です。

  • 入退院支援 スムーズな退院と在宅生活への移行のため、入院中から医療機関とケアマネジャー等が情報共有し、退院後のサービスを調整します。
  • 日常の療養支援 かかりつけ医、訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなどが日常的に連携し、利用者の状態変化の把握や生活支援を行います。
  • 急変時の対応 容体が急変した際に、本人の意思を尊重しつつ、かかりつけ医、訪問看護、救急隊などが迅速かつ適切に対応できる連携ルールや連絡体制を整備します。
  • 看取り 人生の最終段階において、本人が望む場所で穏やかに過ごせるよう、本人・家族の意思決定を支援し、医療・介護関係者が連携してケアを提供します。
  • 認知症 認知症の人が地域で安心して暮らせるよう、早期からの相談支援や、状態に応じた医療・介護サービスへの連携、意思決定支援を行います。
  • 感染症発生時 感染症流行時でも必要なサービスが継続できるよう、平時から医療機関と介護施設・事業所間の連携体制や感染対策を確認しておきます。
  • 災害時 地震などの災害時にも、要配慮者への支援が途切れないよう、避難計画の作成協力や安否確認、関係機関との情報共有体制などを整備します。

これからの動向「制度改正や新たな取り組み」

在宅医療・介護連携推進事業は、国の制度とも密接に関連しています。

  • 介護保険事業計画・医療計画: 市町村や都道府県が策定するこれらの計画においても、在宅医療・介護連携の推進は重要な柱として位置づけられています。
  • 令和6年度介護報酬改定: 医療と介護の連携をさらに強化するため、特に高齢者施設等と協力医療機関との連携体制構築(平時からの情報共有、急変時の対応確認、入院受け入れ体制確保など)が評価されるようになりました。また、居宅介護支援事業所が入院時に迅速な情報提供を行うことや訪問看護師が退院当日に訪問すること、医療機関とリハビリテーション計画を共有することなども評価が見直されています。
  • かかりつけ医機能報告制度: 令和7年度から始まるこの制度により、地域の医療機関が持つ在宅医療や介護連携の機能が「見える化」され、連携推進の議論に活用されることが期待されます。

まとめ

「在宅医療・介護連携推進事業」は、誰もが住み慣れた地域で安心して最期まで暮らせる社会を実現するための、非常に重要な取り組みです。市町村が中心となり、地域の医療機関、介護事業者、そして地域住民や私たちNPO法人などがそれぞれの立場で協力し、連携の輪を広げていくことが求められています。

特定非営利活動法人CCLとしても、この事業の趣旨を理解し、地域における情報提供や関係機関との連携、住民への啓発活動などを通じて、より良い地域づくりに貢献していきたいと考えています。

この記事が、在宅医療・介護連携への関心を深める一助となれば幸いです。